ADHD(注意欠如・多動症)を持つ人との恋愛は、時に激しく、情熱的で、そしてなぜか不安定に感じられることがあります。「すごく好きになってくれたはずなのに、急に冷たくなった気がする」「一途だと思っていたら、飽きっぽいのかもしれない」「どうして恋愛が長続きしないんだろう?」——もしあなたがこのような疑問や悩みを抱えているなら、それはあなただけではありません。
ADHDの恋愛は、その特性から、まるでジェットコースターのようにめまぐるしく感じられることが少なくないのです 。
この記事では、ADHDの恋愛における「好き」の感情の正体、好きな人への特有の態度、そして「飽き性」「惚れっぽい」「恋愛が続かない」といった悩みの背景にある真実を、専門家の視点から徹底的に解説します。
重要なのは、これらの行動が愛情の欠如や性格の問題から生じるわけではない、ということです 。
その多くは、ADHDという脳の神経発達の特性に根ざしています 。この記事を通じて、まずADHDの恋愛の「なぜ?」を神経学的なレベルで理解し、次に「何が」起きているのか(具体的な行動パターンと誤解)、そして最後に「どうすれば良いのか」(幸せな関係を築くための実践的なガイド)を明らかにしていきます。ADHD当事者の方も、パートナーの方も、お互いを深く理解し、より良い関係を築くための一助となれば幸いです。

- シバッタマン
- 精神障害者保健福祉手帳 保持者
- npo法人発達障がい者を支援する会(チームシャイニー)
- 退職代行で40歳で会社を退職し就労移行支援へ
- 氏名:柴田義彦
- 退職代行&就労移行支援、ITの執筆
- 妻と6歳の子供がいて住宅ローン・教育費に必死
- うつ病で休職経験多数
- 経歴・連絡先情報はプロフィールに表示
ADHDでの好きな人への態度?恋愛の特徴は? 惚れっぽい飽き性?

ADHDの人の恋愛が、時に激しい高揚感と突然の下降を繰り返す「ジェットコースター」に例えられるのには、脳の働きに根差した明確な理由があります。
特に「惚れっぽい」「のめり込みやすい」といった恋愛初期の燃え上がるような情熱は、ADHDの神経学的な特性と深く結びついています。
ドーパミンが鍵:刺激を求める脳が惚れっぽい
ADHDの特性を理解する上で最も重要な神経伝達物質の一つが「ドーパミン」です。
ドーパミンは、快感、意欲、幸福感などを司るため「報酬系」とも呼ばれます。
ADHDの脳では、このドーパミンの機能に偏りがあり、日常的に不足しがちな状態にあると考えられています 。この慢性的な「刺激不足」の状態が、ADHDの人の行動原理に大きな影響を与えます。
脳は、不足したドーパミンを補うために、常に新しく、面白く、興奮するような強い刺激を求めます。
そして、恋愛、特にその初期段階は、この上なく強力なドーパミンの供給源となります 。新しい相手との出会い、未知の会話、ときめき、期待感——これらすべてが脳に大量のドーパミンを放出し、強烈な快感と高揚感をもたらすのです。
このメカニズムは、ADHDの人がなぜ恋愛に「のめり込みやすい」のかを説明します。
新しい恋は、単なる感情的な「好き」以上に、渇いていた脳を潤す最も効果的な「特効薬」のように機能します。
その結果、相手のことが四六時中頭から離れなくなり、仕事や他のことが手につかなくなるほどのめり込んでしまうのです 。この状態は、愛情というよりも、脳が神経化学的なバランスと報酬を必死に求めている結果とも言えます。この生物学的な衝動が、「惚れっぽい」という行動傾向の根底にあるのです。
大人のADHDは、好きな人が出来たらその相手に対する態度で定型発達の人と違う部分はありますか? 自己肯定感が低いから好き避けをしてしまうとか、空気が読めないから逆にすぐ好意をカミング アウトしてしまうとか… 何かADHDの方に共通する行動があれば教えて頂けると嬉しいです。
引用元:ADHD恋愛感情がない(YAHOO知恵袋)
「過集中(ハイパーフォーカス)」という惚れっぽさ
ADHDのもう一つの重要な特性に「過集中(ハイパーフォーカス)」があります。これは、興味のある対象に対して、周りのことが一切目に入らなくなるほど、驚異的な集中力を発揮する状態を指します。普段は「注意散漫」と評されるADHDですが、一度スイッチが入ると、その集中力は凄まじいものがあります。
恋愛において、好きな相手はこのハイパーフォーカスの格好の対象となります 。相手のことをもっと知りたい、喜ばせたいという一心で、膨大な時間とエネルギーを注ぎ込みます
相手のSNSを隅々までチェックし、好きなものをリサーチし、サプライズを計画するなど、その情熱は相手を深く感動させるでしょう。この熱烈なアプローチは、ADHDの人が持つ愛情表現の最もパワフルな形の一つです 。
しかし、このハイパーフォーカスには大きな落とし穴があります。それは、この状態が永続的ではないということです。
ハイパーフォーカスは、いわば脳のエネルギーを前借りしているような状態であり、いつかは必ず終わりが来ます 。関係が安定し、初期の新鮮さが薄れてくると、脳は新たな刺激を求めて、ハイパーフォーカスの対象を別のもの(新しい趣味や仕事のプロジェクトなど)に移してしまうのです。
この突然の関心の低下は、パートナーから見れば「急に冷たくなった」「興味を失われた」と感じられ、深い戸惑いや寂しさを引き起こします。これが、ADHDの恋愛が「熱しやすく冷めやすい」と誤解される最大の原因です 。
しかし、ADHDの当事者にとっては、愛情がなくなったわけではなく、単に脳のフォーカスが別の場所に移っただけ、というケースが少なくありません 。この「愛情」と「脳の関心」のズレを理解することが、ジェットコースターのような関係性を乗りこなすための第一歩となるのです。
ADHDでの 好きな人への態度?恋愛の特徴は7つ?飽き性と一途の関係

ADHDの恋愛には、その特性から生まれる特有の「あるある」が存在します。これらの行動は、しばしばパートナーに誤解を与え、関係のすれ違いを生む原因となります。ここでは、代表的な7つの特徴を挙げ、その背景にあるADHDの特性と、隠された「真相」を解き明かしていきます。
特徴1&2:「飽き性」と「一途」は同じコインの裏表
ADHDの恋愛における最大の矛盾は、「飽き性」に見える一方で、実は非常に「一途」であるという点です 。このパラドックスは、前述のハイパーフォーカスと深く関連しています。
恋愛初期のハイパーフォーカス状態では、相手に全てのエネルギーを注ぎ込み、まさに「一途」そのものです 。
しかし、この熱狂的な時期が過ぎ去ると、脳の関心は他の刺激へと移り、パートナーへの注意が散漫になります。この態度の変化が、パートナーには「熱しやすく冷めやすい」「飽きっぽい」と映ってしまうのです 。
しかし、これは愛情が消えたことを意味するわけではありません。多くのADHD当事者は、関心の表現が不器用になったり、ムラが出たりするだけで、内面では深く相手を想い続けています 。愛情の「量」が変わったのではなく、愛情の「表現方法」や「エネルギー配分」が変わっただけなのです。この「関心の変動」と「愛情の持続性」のギャップを理解することが、誤解を解く鍵となります。
特徴3&4:悪気なきトラブルメーカー?衝動的な言動と忘れっぽさ
ADHDの恋愛が長続きしにくいとされる直接的な原因の多くは、日常生活における具体的なトラブルにあります 。これらは、ADHDの「不注意」と「衝動性」という二大特性から生じます。
- 忘れっぽさ(不注意): 大切な記念日やデートの約束をうっかり忘れてしまう 。待ち合わせに遅刻する 。プレゼントをどこかに無くしてしまう 。これらは、相手への愛情が薄いからではなく、脳のワーキングメモリ(短期的な記憶を保持する機能)の弱さが原因です。本人に悪気はなく、むしろ忘れてしまったことに強い罪悪感を抱いていることも少なくありません 。
- 衝動的な言動(衝動性): パートナーが気にしていることを「太った?」などと悪気なく口にしてしまう 。相手の話を遮って自分の話をし始める 。感情が高ぶると、後で後悔するような酷い言葉を言ってしまう 。これらは、思考と行動が直結しやすい衝動性の特性によるものです。相手を傷つけようという意図はなく、思ったことがフィルターを通さずに口から出てしまうのです 。
これらの行動は、パートナーにとっては「自分は大切にされていない」と感じる原因となり、関係に亀裂を生じさせます。しかし、これらが個人の選択ではなく、脳機能の特性によるものであると理解することで、非難の応酬ではなく、具体的な対策を一緒に考えるという建設的な方向に進むことができます。
特徴5&6:見えない心の痛み―感情の波と「拒絶過敏性(RSD)」
ADHDの人が抱える困難は、目に見える行動だけではありません。その内面では、激しい感情の波が渦巻いています 。ささいなことで激しく落ち込んだり、カッとなったりと、感情の起伏が激しいのが特徴です 。
さらに、ADHDの恋愛を語る上で欠かせないのが「拒絶過敏性(Rejection Sensitive Dysphoria, RSD)」という概念です。これは、他者からの拒絶や批判、あるいはそう受け取れる些細な言動に対して、耐えがたいほどの精神的な苦痛を感じる特性を指します 。ADHDを持つ人の多くが、このRSDを抱えていると言われています 。
RSDは、恋愛において深刻な影響を及ぼします。
- 自己肯定感の低さと依存: 幼少期からの失敗体験や叱責により、自己肯定感が低い人が多く 、「自分なんて誰にも愛されない」という思い込みを抱きがちです。そのため、少しでも好意を示されると「こんな自分を好きになってくれた」と断れず、DVやモラハラをするような不健全な相手と付き合ってしまうことがあります(ダメ男ホイホイ) 。これは、拒絶される痛みより、たとえ悪い関係でも誰かと繋がっている方がマシだと感じてしまうためです。
- 些細なことでの大爆発: パートナーからの何気ない注意や、少し不機嫌な態度を「全否定された」「嫌われた」と極端に解釈し、激しい怒りや悲しみを爆発させることがあります 。パートナーからすれば「なぜそんなことで?」と思うようなことでも、RSDを持つ本人にとっては、存在そのものを脅かされるような恐怖なのです。
このRSDという見えない痛みを理解することは、ADHDの人の一見不可解な行動の裏にある、深い不安と恐怖を理解することに繋がります。それは、関係の自己破壊的なパターンを断ち切るための重要な鍵です。
特徴7:困難だけじゃない!ADHDがもたらす恋愛の「強み」
ここまでADHDの恋愛における困難な側面に焦点を当ててきましたが、その特性は素晴らしい魅力にもなり得ます 。
- 純粋さと正直さ: 衝動的で裏表のない態度は、子どものような純粋さや無邪気さとして映り、非常に魅力的です 。思ったことをストレートに伝えてくれるため、駆け引きのない正直な関係を築くことができます 。
- 情熱と行動力: 恋愛初期のハイパーフォーカスは、相手を深く愛し、喜ばせるための情熱的なエネルギーとなります。また、衝動性は時に素晴らしい行動力や自発性として発揮され、デートをリードしてくれたり、斬新なアイデアで楽しませてくれたりします 。
- ユニークな視点と創造性: ADHDの人は、定型発達の人とは異なるユニークな視点を持っていることが多く、その会話は常に刺激的で飽きることがありません 。そのうっかりした特性が「天然で可愛い」と好意的に受け取られることもあります 。
困難な特性と魅力的な強みは、まさに表裏一体です。自分の、あるいはパートナーの「良いところ」に目を向け、それを育んでいくことが、幸せな関係を築く上で非常に重要になります。
まとめ:ADHDでの好きな人への態度?恋愛の特徴は?飽き性?彼氏一途?惚れっぽい
ADHDを持つ人の恋愛は、一見すると矛盾に満ち、不安定に感じられるかもしれません。燃え上がるような情熱と突然の沈静、一途な愛情と移ろいやすい関心、悪気のない失言と深い後悔。これらの複雑なパターンは、本人の性格や愛情の深さの問題ではなく、ドーパミンやハイパーフォーカスといった脳の神経学的な特性、そして「拒絶過敏性(RSD)」という見えざる痛みに深く根差しています。
「飽きっぽくて恋愛が続かない」という悩みは、多くの場合、ハイパーフォーカスの終了に伴う関心のシフトを、パートナーが「愛情の終わり」と誤解してしまうことから生じます。その根底には、愛情が持続しているにもかかわらず、その表現が不器用になってしまうという、ADHD特有のジレンマが存在します。
しかし、これらの挑戦は乗り越えられない壁ではありません。ADHD当事者が自身の特性を理解し、具体的な対策を講じること。パートナーがその行動を個人化せず、症状として理解し、具体的で丁寧なコミュニケーションを心がけること。そして何より、二人が「チーム」として対立を協力に変え、お互いにとって心地よい独自のルールとシステムを築き上げていくこと。
こうした相互の理解と努力があれば、ADHDのある恋愛は、単に「続く」だけでなく、他の誰にも真似できないほど情熱的で、正直で、そして深く満たされた、唯一無二の強い絆へと昇華させることが可能です 。その道のりは決して平坦ではないかもしれませんが、互いを理解しようと努める旅路そのものが、二人にとってかけがえのない財産となるでしょう。
コメント